そら飛ぶ映画好きのひとりごと。

感想は抽象的であり、単なる感想に過ぎません。

ティーン・スピリット Teen Spirit

2018年公開(米)

監督・脚本:マックス・ミンゲラ(デビュー作)

出演:エル・ファニング、ズラッコ・ブリッチ

音楽:マリウス・デ・ヴリーズ

92分

 

この映画は予告を見た記憶がなかったのだが、ネットで見かけて気になったので見に行ってみた。

思っていたよりも面白かったし、最後は少しうるっときてしまった。

エル・ファニングは見るたびに成長していて、ますます素敵になっている。最近はすっかり大人っぽくなり美しさを増しているが、笑った時のあどけなさは相変わらずで癒される。

彼女は人とはちょっと違う女の子の役がよく似合う。

 

それでは、以下はネタバレを含みつつ感想を書き連ねよう。

 

田舎に暮らす少女は、あまり人に心を開かず、いつも無表情で普通の10代の女の子にしては珍しい。彼女の表情からは普通の女の子とは違う様が感じられ、明らかに心に何かを抱えているようであった。私はこういった主人公が何か鬱屈とした思いを抱えている系の作品が好きである。ここでこの映画への期待が高まった。

正直この映画は、予告を見ていなかったということもあり、もっとポップなミュージカル系のものだと勝手に思ってしまっていたので、むしろこういった人の心の闇を描いている系のものだと知って喜びが増した。

 

彼女は母子家庭で育っている。幼い頃に母親が浮気をしていて、両親は離婚、父親が突然いなくなってしまったトラウマを抱えている。

そのことが原因で、母親に対して心を閉ざしがちである。彼女は母親とは心の距離を置いている。貧しさが二人の関係をよりぎすぎすさせているが、二人の間には確かに親子の絆はあることは感じられる。

 

簡単に言うと、この作品はガリーボーイ(2019年/インド)をものすごくテンポ良くしたものだ。

あとは、エイトマイルにも似ているだろう。

ガリーボーイやエイトマイルでも描かれているが、貧しかったり恵まれない環境にいたりする人々が想いを吐き出す方法はいつの時代、どの国にでも音楽なのだな、と思う。

 

ティーンスピリットはカットが短めで、ストーリー展開もかなりテンポが良い。最近の若い監督のデビュー作で、ホット・サマー・ナイツ(2018年/アメリカ)があったが、その映画もなかなか見ない撮影方法であったことを思い出した。若い監督のデビュー作となると今まであまりみたことのないカメラ遣いなどを見られて面白い。

 

ほぼ長回しはないのだが、エル・ファニングが大会の決勝戦のステージに向かうシーンだけは長回しである。ここはなかなか面白いと思った。ここぞと言う時に長回しを使うのは、少しあからさまな感じもしなくはないが、なかなか良いのではないかと思う。

最終決戦のステージへ向かう時の心境というと、緊張、不安、勝ちたいという思いなどいろいろな思いを巡らしているはずだ。見ている側は、この主人公ヴァイオレット(エル・ファニング)は何を考えているか、その長回しの間に想像をする。

見ている側も一緒にステージへ向かう気分だ。後ろ姿ではなく正面から撮ることで表情を見られる。長回しは役者の演技の腕が見られるのではないか。エル・ファニングの絶妙な表情が良かった。

 

エル・ファニングの歌唱力は、思っていたよりも良かった。アリー/スター誕生(2018年/アメリカ)を見た時にレディー・ガガの圧倒的な歌唱力には鳥肌が止まらなかったが、もちろんそういった感じではない。高い音があまり出ないので、いかにも歌が上手い!圧倒される!という感じはなかった。そこはやはり女優であり歌手ではないのでびっくりするような上手さではないことは不思議ではない。

彼女は声が独特、つまり素敵な声を持っており、少し暗めの曲がよく似合う。伸びのあるハイトーンが出ることだけが歌のうまさを測るものではないと私は思う。彼女の歌い方はなかなか味わい深かった。

 

両親が離婚してしまって、父親が突然いなくなったことにトラウマを抱えている感じも描かれている。マネージャーとして協力してもらった、ヴラッド(ズラッコ・ブリッチ)が姿を消した時に不安げで気がかりである様子が感じられ、彼女にとって父親がいなくなったことが人生にどれほどの影響を及ぼしているのかということが見て取れる。

 

この映画を見てやはり音楽は素晴らしいと思う。

ヴァイオレット(エル・ファニング)が一人自分の部屋でiPodで音楽を聴きながら踊っているシーンが印象的だが、人は皆ああやってストレスを解消したり、自分だけの世界に浸ったりして喜びを感じるものだ。

あのシーンは印象的に描かれていて、人間にとって音楽の存在の必要性を改めて感じさせる。

 

画もなかなか良かった。自然の風景が美しく描かれていて素晴らしい。