別離
イランの映画です。
私は見たい映画をiPhoneのメモ帳に書いているのですが、『別離』もその中にありました。
Amazon プライムで見つけたので、「そういえば別離って見たいリストにあったな〜」と思いながら見てみました。
なぜ別離が見たいリストにあったかというと、町山智浩の『トラウマ恋愛映画館』という本に載っていて気になったからリストに載せました。その本を読んだのが2年前くらいなので、なんとなく観たいと思ったからメモしたのだな、と認識していた程度です。
映画を観終わったあとに、町山智浩の本で解説が載っているかもしれない、念のため確認しておこうと思い、「別離」という文字を探しました。
観たいリストの「別離」の前後に、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』と『ラストコーション』があったので、その辺りに「別離」はあるはずだ、と一生懸命探しました。
なかなか見つからなかったのですが、ようやく見つけ前後の文章を確認すると、特に別離についての解説はありませんでした。
それどころか、この本に載っていた別離は、イングリッド・バーグマン主演の1939年公開のものでした。
勘違いによって今回、この『別離』を鑑賞したのでした。
ただ、勘違いしてよかったと思いました。なぜならかなりの見応えがあったからです。
主となるテーマは「離婚」なので非常に重たいし、自分の将来について改めて考えるきっかけの一つになるので、真に受けるとかなりしんどい映画です。
とにかく、物事がどんどん悪い方向に行ってしまいます。
観ていくとどんどんどんどん辛くなっていきます。
マリッジストーリーも離婚がテーマで、なかなか心を揺さぶられる映画でしたが、あれはまだ感動であったりいわゆるハリウッド映画的(?)な美しい愛が描かれていましたが、この『別離』はとてもじゃないが観ていられなくなってくるような、重たいものでした。『別離』は容赦のない映画です。
なんというか、結婚生活の辛い部分や現実性が描かれていました。
結婚について考えさせられる作品をこれまでいくつか観てきました。その度に、自分と重ね合わせ、思い悩み、私は結婚ができないかもしれない・・と悲しくなり涙を流してしまいます。
別離の場合は、観ていて非常に悩ましい気持ちになるのですが、観続けているとそういった感覚をも超えて、遂には展開が気になり目を離せなくなるような映画でした。
観ていて辛いには辛いのだが、非常に考察のしがいのある奥深い非常に真面目な作品でした。
別離で描かれていたことを元に、結婚生活の問題点や夫婦が揉めてしまう原因、いくら話し合っても分かり合えないのはなぜか、考えてみたいと思います。
まず、結婚とはどういうことか考えてみます。
結婚とはある一人の相手と生涯を共にすることを決意することです。
死ぬまで一緒にいると決めることです。
そして、死ぬまで一緒にいるとはどういうことかというと、その人の人生の責任を負い、互いに助け合い、共に生きていくことです。
共に生きていく過程で様々な壁にぶつかると思います。それでも二人で、子供がいるなら、家族みんなで力を合わせて生きていきます。
壁というのは、家族が病気になるだとか、両親に介護の必要性がでてきてしまうだとか、お金の問題だとか、色々とあると思います。あげたらきりがありません。
結婚とは、そういった壁にぶつかっても助け合いながら継続してその人と寄り添うことです。
まさに苦楽を共にし生涯添い遂げ続けることを覚悟することが、「結婚すること」だと私は思っています。
そうやって、「一生」というものが付き纏うと、なかなか結婚に踏み切れなくなります。女性の場合だと、すべての家事や家族の世話をする人が未だに多いので、自分のために時間を使うことが出来なくなる人が多くいるため、余計に結婚を渋る気持ちが湧いてくるのではないかと思います。
それでも、人々がこれほど縛られても人生を賭けて結婚をするのは、独りであることは孤独であり、また、本当に愛している人といつまでも一緒にいたいと、その時は思うからです。
ただ、これほどまでに結婚生活に人生を縛られて生きづらくなるのであれば、簡単に離婚ができるようにすれば良いのでは?と思うところもあります。
ただ、簡単な離婚なんて、出来るわけがない。それが現実ですね。倫理的に考えてもおいそれと離婚をすることは不可能です。
2人が築き上げてきた思い出があるし、何より子供がいれば尚更離婚なんてできることではないです。
同じような価値観を持っている者同士ならば、結婚生活というのは幸せなのかもしれません。しかし、実際は相手のここが分からないだとか、納得のいかない価値観に悩まされることがあると思います。夫婦が揉めてしまうのは、価値観の相違が大きな原因だと思います。
互いに納得できるまで話し合い、相手の価値観を尊重できるような関係性であれば問題はさほど大きくならないかもしれません。
ただ実際のところ、夫婦というものは不思議なもので、夫婦間では強気になったり行き過ぎたことを口走ったりしてしまうことがあると思います。お互いに自分の価値観を譲ることができなくなっていき、悪循環が起き始めることがあります。
それは、愛し合って心を開き合ったからこそ起こり得ることだと思うし、なんとも皮肉な事実なのです…。
一度互いに譲れない状況に陥ってしまったら、いくら話し合っても解決することは難しくなります。
『別離』では、離婚をするところから始まります。ただ、簡単に離婚をするという決断をしたわけではないことは見ていたら分かります。互いに納得できない部分を抱えてきて、愛情も冷め、だけれども子どものことを想ったり、互いのこれまでの生活のことを思ったり、様々な葛藤がある状態で離婚を決意したのだろうと。
離婚をきっかけにそれまでの生活リズムが大きく崩れ、やむなく違うことを試みたところ、思わぬ方向へ行ってしまい取り返しがつかなくなっています。
追い詰められた2人から発せられる言葉は、長年積み重ねてきた不満のようなものでした。
この映画の最後のシーンの印象的なことといったら、素晴らしいものでした。
娘が弁護士より、お父さんかお母さんか、どちらに決めたか口に出して教えて、と言われてしまいます。
我々は彼女の答えを聞かされぬまま、エンドクレジットを迎えることになりますが、なんとも奥ゆかしい、そしてこの先この家族はどうなってしまうのだろう?と不安にさせられる終わり方でした。
この映画の監督、アスガル・ファルハーディーという方は非常に隙がないほど真面目でかつメッセージ性の強い映画を作る人なのだなと思いました。ドキュメンタリーにも近いほどの淡々とした雰囲気で撮られ、それゆえに現実性を強く感じます。静かだが、非常に力強い、骨太な作品だと思いました。
アカデミー外国語映画賞を受賞した、『セールスマン』という映画を観ましたが、そちらも同様でした。
非常に注目されるべき監督だと思います。
イランの社会問題や宗教的な部分についても理解しておくと、より深みを増すと思いますし、少し疑問に思った点も納得がいくのだろうと思います。
少しでもイランの社会構造について勉強してから観ることをおすすめします。観たあとに調べるでも良いと思います。
とにかく、人におすすめできるような、見応えのある映画でした。