オンザハイウェイ その夜、86分 Locke
2013年
監督・脚本:スティーブン・ナイト
主演:トム・ハーディ
トム・ハーディが1人だけ出演し、その他複数人は声だけという異質の作品である。
とても深刻な話題のはずなのに、妙に冷静なトム・ハーディ。運転中だからこそ、あの感じなんだろうなと思った。
話に集中しているようで、“運転”というものに意識を集中させねばならない。
目線は常に進行方向だ。
長距離の運転をしながら電話だけで複数人とやり取りをする異質な状況が、見ていてとても不思議な感覚にさせる。
はじめは何の話なのかよく分からないが、徐々に状況が見え始める感じが興味をそそられる。
電話越しの声とその周辺の音だけで、その人たちの状況(表情など)が想像される感じが面白い。表情が見えない分、シリアスな話を聞かされた人たちの精神状態、表情などを自分たちだけで想像するので、見ている側にその場面の想像が委ねられる感じが面白い。
電話という手段を取るしかないので、すごく人との距離を感じる。
子供と話している時に涙を流してしまうトム・ハーディの姿は、何とも言えない気持ちにさせる。
自分で作り出してしまった状況に涙する姿は、あまりにも哀れさで溢れている。救いようがない状況にも関わらず、少し“かわいそうだな”と思わせられる。
あのトム・ハーディの涙は非常に印象的である。
あの話を聞かされた奥さんとの会話での間とか、奥さんが聞きたくないことを耳にして、電話を唐突にぶち切る感じが、とてもリアルである。
とても言い出したくない話題のはずなのに、口からスルスルと言葉が出てくる感じがまた、運転中であり、かつ電話で、という状況を強調させる。
最後の方でトム・ハーディ演じる主人公が自分の息子と会話し、病院に向かう気持ちが一瞬揺らいだように見えたが、改めて浮気相手と電話し、生まれた赤ちゃんの声を聞いて、即答で「行くよ」と答えるところが、とても複雑な気持ちにさせられる。
この映画を見て思うことは、その時の一瞬の欲望に負けることがどれ程その後に大きく影響を及ぼすか、ということであり、更にそういう浅はかな行動は全てを壊し非常に恐ろしいことである、ということだ。
場面に変化がないので、疲れている時に見るととても眠たくなる。
1時間30分程度であるが、とても長く感じた。
病院に近づくにつれ、徐々にトム・ハーディが演じる役の人柄、人からの評価、家族像が見えてくる。その“少しずつ”というのがとても面白い演出である。