そら飛ぶ映画好きのひとりごと。

感想は抽象的であり、単なる感想に過ぎません。

愛しのアイリーン

原作:新井英樹(1995〜1996)

監督:吉田恵輔ヒメアノ〜ル

主演:安田顕変態仮面)、ナッツ・シトイ、木野花

 

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やられました。。涙が溢れ出ました。感動とはまた違った感情に襲われました。

人間臭さが物凄くよく演技、セリフによって表現されていて、素晴らしかったです。

原作者の新井英樹さんらしい、メッセージ性のある作品です。

彼の作品は見た(読んだ)後にずしんと、後を引く感じがあるんです。

ザ・ワールド・イズ・マイン』を知っていますか?

あの作品は究極的な道徳を問う作品だと言われています。

私はあの作品を読んだ時の衝撃が忘れられません。

バイオレンスが過ぎるし物凄くグロい描写も多いですが、そんなもの抜きにして、とても心に重くのしかかる作品です。

今回の作品は、新井ワールドを見事映画にて再現した素晴らしい作品です。

また、役者たちの演技もお見事!全力で作品にぶつかっています。

2013年あたりに一世を風靡した、あのあまちゃんにも出演していた木野花さんの演技が特に素晴らしい。クライマックスに向けたあるシーンで、感情が大爆発してしまうのですが、そこを見事やってのけていて、役者魂を感じました。

 

 

女を抱きたくてしょうがない42歳独身、パチンコ店のスタッフを勤める主人公岩男が性欲なるものをこじらせにこじらせて、冴えない毎日を送っています。

職場に綺麗な人、愛子という人がいて、その人が自分に思わせぶりな態度を取るんで、付き合って抱きたい、そういう想いがますます募ってしまいます。だけど、その女性が、色んな男と体の関係を持つ、超ふしだらな女だということが明かされ、本気になっちゃいけない相手だと気づいてもう完全にぶっこわれちゃいます。

もう誰でも良いから女が欲しい!ついにそのこじらせていたものが大爆発してフィリピンまで吹っ飛び、お嫁、そうアイリーンをもらってきてしまうことから、岩男の人生が大きく動きます。

 

岩男は男の欲望を満たすため、アイリーンはお金のために結婚します。

だけど、そういった利害一致の愛のない結婚だったはずが、段々とお互い得するためだけの関係に留まらず、2人の間に小さな幸せ、愛が芽生え始めます。そうなったのも、岩男とアイリーンの2人共が、あまりにも素直で正直な人間だったからこそです。

 

アイリーンは、日本語なんて全く喋れないし、フィリピンにいる家族にお金を仕送りしてもらうために結婚しただけで、別に岩男に惚れてなんかいない。更に日本人、特に岩男の母ツネに虐げられて、自分がここにいる意味が見出せないっていう状況です。

それにも関わらず、非常に天真爛漫に素直に生きています。お祭りを楽しんだり、日本語を一生懸命勉強しては、言葉を覚えたての子供のように目に入った物に指をさし、あれはなんだこれはなんだって騒いだり、本当にかわいらしくて、自然と惹かれていくキャラクターなんです。

 

一方岩男も、性欲が抑えられなくてやらせてくれよぉ〜ってアイリーンに素直に言っちゃう、その一見ださくもあるような冴えない感じを一切隠すことなくさらけ出してしまうところに、(女としては若干の気持ち悪さはあるものの(笑))愛らしい、とも感じられます。

アイリーンに夜のお供を頑なに断られても、それに従って、もう欲求不満過ぎてやばいのに、無理矢理しようとしないところも彼の優しさ、素直に従ってしまう愛おしさが感じられました。

 

そして、2人共お互いの素直さに惹かれあい、ようやく結ばれます。そして小さな愛と幸せが生まれます。

 

でもこの幸せも束の間、母親ツネがフィリピン人、異国の地の人間であるアイリーンをどうしても受け入れられないっていうところから2人は地獄へと向かってしまいます。

 

まず、アイリーンは外国人であるため、とてもとても疎外されています。あの作中ではツネに真っ向から存在を否定され、岩男が元好きだった人愛子も、アイリーンが口紅を塗ってくれとせがむので塗ってあげるものの、その口紅をいかにも汚いものと言わんばかりの表情で速攻で捨ててしまいます。そんなことからも、彼女は存在を虐げられてしまっているっていうことが描かれ、見て取ることができます。

 しかしながら、外国人が疎外される感じが、少し古い気もしました。今の日本ではなかなかない現象だと思います。

今はダイバーシティだのなんだの言ってる時代ですから。

そういった違和感がありましたが、なんだ、よく見たらこの作品が作られたのは25年近くも前じゃないか。そりゃあ今とは状況が違いますわな。

まあそういった違和感はすぐに拭えたということです。

 

そして、その母親ツネがアイリーンをどうしても受け入れられないということが悪い方へと行ってしまう。

アイリーンを商売道具として欲しい伊勢谷友介演じるヤクザとツネが関わってしまいます。

そして、事態は思わぬ方向へ。2人はまさに地獄へ落ち、その苦しみを共有せねばならなくなります。

 

そこから、小さな愛が生まれていた2人の関係もぼろぼろと崩れていってしまうのです。

クライマックスに向かうまでは、せっかく育まれた愛が音を立てて崩れていく感じが結構辛いというか、嫌な感じなんですよ。もうとにかく、いや〜〜な空気が漂っていて。ああ、見ていられない、みたいな状況になってくるんです。

だから中盤〜後半にかけてちょっとどうなっちゃうの?このまま不愉快なままじゃあ終わりませんよね…?ってちょっとそわそわしました。(笑)

 

いやあでもさすがは新井英樹さんの作品!素晴らしいクライマックスでした。

もう、泣くしかないです。

まさに「愛しのアイリーン」なんです。

もう言葉にできないし、行動で表すこともできないけど、愛してやまないアイリーンなんですよ。本当に本当に心から愛している。愛しのアイリーンをこの手に抱きたいのに…みたいな。

あ、思い出したら泣けてきた。(笑)

 

 

最後に思ったのは、やっぱり新井英樹さんは登場人物を容赦なく殺すよなぁ!ってことですね。

 

いやぁ、素晴らしい映画だったなぁ。