そら飛ぶ映画好きのひとりごと。

感想は抽象的であり、単なる感想に過ぎません。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト Once Upon A Time In The West

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェストと日本語で打ち込んで、・がやたらと多いな、と思っている。

マカロニ・ウエスタンをこの世に知らしめた、セルジオ・レオーニ監督のワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェストを観てきた。ワンス〜は長編バージョンで、実は昔に日本で公開された時は『ウエスタン』という邦題で短縮バージョンで公開されたそう。

・・・正直、本日観に行ってネットで検索するまで知らなかった。

というのも、私はちゃんとした西部劇を観たことがなかった。しかもセルジオ・レオーニが作ってきた西部劇というのは、「マカロニ・ウエスタン」と呼ばれ、イタリア系の俳優を使い、イタリアの荒野を使って撮影されたものらしい。「マカロニ・ウエスタン」という言葉は聞いたことがあったし、イタリアものということもなんとなく知っていたが、調べてみてなるほどと思った。

 

この映画は3時間弱あるがあまり長く感じなかった。2時間くらいに感じた。

じっくり、じんわりと流れる映像は、気が急いている時に見ると「早くしろ!」と思うかもしれない。ただ、そのじっくりじんわりのおかげで、ガンマンの撃ち合いが始まる前の緊張感なるものを感じ取ることができる。セリフも少なめで、「何かが起きそうな雰囲気」が漂うことが多々あった。

オープニングクレジットは本当に長かった。あれほど長いものは初めてである。

大抵の映画は、オープニングクレジットにはそんなに時間をかけない。ぱっぱと進んでいくが、時間をかけて撮られたオープニングクレジットを目にして、この映画はゆったりとした気持ちで見るものだ、というのを悟った。このゆっくりさだからこそ3時間弱なのだろうな、と思ったが、あのオープニングクレジットのおかげでこの先3時間大人しく観ていよう、と構えることができた。

タランティーノが最も影響を受けたとも言われているらしかったので、作り手のことを信頼し、3時間弱身を委ねることにした。

結果、思っていたよりも短く感じたし、飽きることなく最後まで楽しめた。

ゆったりと流れる映像のおかげで、じっくりと映像を見ることができた。ファッションやインテリアや人々の様子。アメリカ西部であり、蒸気機関車が走っていたり、線路を伸ばしたり、街を作っている過程であったりしたので、おそらく西部開拓時代なのだな、ということが見て取れた。ガンマンが西部開拓時代にいたということも、歴史をよく勉強していなかったもので、本日ようやく繋がった、というところだ。知識不足を詫びたいところだが、予備知識も何も持っていなくとも、ちゃんと理解できる映画だったので良かった。ものすごくよく景色や、当時の工事の様子などを映してくれるので、描かれている時代の状況がよく分かった。

また、観ていてすごく思ったのだが、この時代はまだ蒸気機関車の時代だし、ちょっとした移動は馬を使うし、とにかく移動するのに時間がかかる。そのためか、映画としての時間がゆったりと流れることは当たり前であると受け入れられたし、それが心地よくもあった。

今私は2020年を生きていて、しかも都会にいる。毎日せわしなく時間が過ぎていくし、自然を感じる時間やゆったりと自分のために時間を費やすことも少ない。

現代は何をするにも便利なものがあり、病気になっても優れたワクチンもあるし、遠く離れても家族や友人と繋がることができる良い時代だ、と確かに思う。

ただ、このワンス〜インザウェストで描かれているゆったりじっくりな時間も非常に味わい深く、素晴らしい体験であった。

 

メインキャストだけでなく、よーく周りの景色や周辺の人々を観察してみた。黒人や、インディアン、そして白人が共存している社会。肉体労働をしている人のほとんどが黒人であったし、黒人がせっせと文明の発展に必要なものを作っている中で、白人たちは銃での撃ち合いをしたり、金儲け、いわゆる「ビジネス」を始めたりしていた。そういった事実がやはり見て取れた。これがアメリカがしてきたことであり、無視できない点なのである。ただ、この映画のテーマは、そういった「社会」ではないので、話を本筋に戻そうと思う。

 

この映画を見て何を思ったか。簡単に言うと、男にしか理解できない世界が描かれているんだと思った。いや、男にしかとは言い切れない。女でも理解のある人はいる。ただ、よく映画などで女が言う、男って本当にしょうもない、戦ったり、正義のヒーローになりたがったり、みたいなセリフを耳にすることがある気がする。そのしょうもない、というのは、否定的な意味というよりは、男が周りに目もくれずひたすらにロマンを追い求めて夢見がちな姿に対して、幾つになっても子どものようでいるように見えるために発せられるものであり、愛おしさが込められた言葉だと私は思っている。

話が逸れたが、「男のロマン」が描かれているのだと思う。

いつの時代も、男の人の多くはかっこよくありたいと思い、自分が一番強くありたいと思うのだな、と思った。

 

ドラマチックな演出で、物語やキャラクターの役割も分かりやすく、非常に見やすい映画だった。社会問題や人の心が描かれている映画ではなく、劇的なものであったので、娯楽性の高いものという気がした。男の復讐劇としても面白く、脚本もよくまとまっていたと思う。

大抵男たちがかっこつけていて、かっこいいようなセリフを渋い声と顔で発するのだが、思わずツボにはまってしまった面白い発言もあった。

いかにも抜けている、見るからに下っ端感のある伝達係に対して、フランク(ヘンリー・フォンダ)が「ズボン釣りもしてベルトもしているやつを信用できるか」というのだが、いや本当にそうだ(笑)ととてもツボにはまってしまった。渋い男がキメ顔をしながらちょっとギャグっぽいようなことを言う。そういった思わず笑ってしまうような場面もいくつかあり、楽しかった。

 

ヒロインのジル(クラウディア・カルディナーレ)も、強くて自立した女として描かれていて、かっこいいなと思った。

フランクに殺されそうになった時も、迷わず体を差し出し、「そんなことをしてまで生きたいのか」と言われてはっきりとそうよ、というところは潔いな〜と思った。

まあ、そんなジルは、男たちの勝手な闘争だとか野望だとかに巻き込まれてしまうのだが、強くたくましく生きていたのは印象的だ。

 

この映画を観たのは、何と言ってもタランティーノが影響を受けたと言うからだ。

よくタランティーノの映画で、「その場を支配する」と言うような場面が描かれる。よくサミュエル・L・ジャクソンが演じるところだ。

このワンス〜インザウェストでも、強くて動じない者がその場の空気を支配する場面が多々あった。なるほど、確かに影響を受けている、と思った。

 

ゆるがない強さを持った者がタランティーノの映画にはよく登場する。その人にかかれば何か良からぬことがあっても安心できると言うか、「きっとこの人ならこの場を乗り越えてくれる」というような信頼感を持てる人物が出てくる。

ワンス〜インザウェストでは、それがハーモニカ男(チャールズ・ブロンソン)だった。ワンス〜インハリウッドでは、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースだ。銃口を向けられても全く動じない。動じない彼らは、過去にもっと過酷なことや残虐なことを経験しているということを理解することができる。

このことを思うと、今回見たワンス〜インザウェストやタランティーノ映画は、結構正統派的なところがあると思う。理不尽なことや気分が悪くなるようなことはあまり起きない。

激しいバイオレンスがあるにはあるが、こういった映画を作る者たちは優しい心を持っていると思う。

 

少し前に『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』という映画を見た。この映画は不気味だし、理不尽なことが起きる。変わった映画で少し後味が悪い。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』もトラウマレベルの理不尽な結末を迎える。人の心に傷を負わすレベルだ。

そのような映画と比べると、タランティーノの映画は優しいし、観ていて楽しい。

そして、ワンス〜インザウェストも観るものに対して優しい映画だと思った。

 

クレジットをよく見ていると、「ダリオ・アルジェント」の文字を発見した。「あ、サスペリアの人だ、確かにイタリア系の名前だよなこの人は。ここでも繋がりがあるのか」と思った。

もっともっと勉強する必要がありそうだ。