そら飛ぶ映画好きのひとりごと。

感想は抽象的であり、単なる感想に過ぎません。

ヴィクトリア VICTRIA

2015年 ドイツ

監督:セバスチャン・シッパー

出演:ライア・コスタ、フレデリック・ラウ

ベルリン国際映画祭銀熊賞芸術貢献賞

ドイツ映画賞6冠

 

全編ワンカット、140分間回し続けた!

 

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近所のゲオが厳選した、面陳列をなされた「ヴィクトリア」を手に取ってみました。

「全編140分 ワンカットの衝撃」の文字が目に止まり、見なければ…!と思わせられました。

 

ストーリーは、主人公の若い女の子、ヴィクトリアが夢破れて故郷を離れ、ドイツに渡り、そこで出会ったチンピラ風の若い男たち数人と夜の街で出会い、“なんとなく”行動を共にする、というもの。

しかし、ヴィクトリアは感じ始める。彼ら、いや、男たちの1人がヤバイ何かと関わっていることを。何も知らない間柄だからこそ、“徐々に”そのヤバイ感じが見えてきます。

少しずつ、主人公ヴィクトリアが、関わったらいけないという危険信号に不安を掻き立てられていく様は、見ているこちらにまでも怖い、逃げたいという気持ちにさせます。

この感じは、ノーカットで、主人公たちをひとつのカメラで追い続けるからこそ溢れるものなのだろう。そして観る者に、その場にいるかのような感覚を味わわせ、リアリティが生まれているのです。

私は、こんな凄まじい映画見たことない!と思いました。

まさに映画!と思わせられ、演者たちもこれまた凄まじいと思います。彼らはとても難しく、素晴らしいことをやってのけたと言わざるを得ません。

 

道行く人たちと、よくある(?)酔っ払ってるが故にしてしまう喧嘩をするシーンがあります。

いやまさか台本だろう、と思って見ていたのですが、後に少し調べてみて知りました。

なんと、アドリブだと。というかハプニングだと。(笑)

でも、カメラは止めない!今話題のカメラを止めるな!のように。

でも、実際にぼっこぼこにしたわけではないと思います。ただ台本があるようでほぼないので、機転を利かせ、緊張感溢れるシーンを作り出したにすぎないのです。もう役者たちは役になりきっているのでしょう。

彼らは、その役として、あの140分間を生きている。

そして、カメラを握る者たちは、どんなハプニングがあろうともカメラは止めず、140分間を生きる彼らを、映像に収め突き進む。

演じる者とその場面を捉える者の意地により完成された映画といえよう。素晴らしい!

 

私はこの映画を見て、2時間って短いなぁと思いました。

映画を見よう!と思って時間を確認して2時間を超えていると、ちょっと長いなぁと思ってしまうことがあるのですが、よくよく考えてみれば、2時間なんて1日24時間の12分の1だし、ぼーーーっとしてたらあっちゅー間に過ぎてしまうような時間ではないか…と思いました。

長回しで一切カットなし、それで、深夜4時くらいから夜が明けるまでの時間をただ映像にしているだけなんです。

日常に潜む非日常を2時間映し続けただけに過ぎない。

私は、2時間、2時間半越えの映画でも、長い…なんて文句を言わないようにしよう、と思いました。(笑)

 

男たちの中でいかにもヴィクトリアを好いている素振りを見せてくる男がいます。

主人公ヴィクトリアもドイツに来たものの、まだ友達もいなくて寂しい。自分を好いているし、話していて楽しいし、夜中のテンションだし、みたいな感じで、優しいしちょっと好きかも?ってな感じでその彼と仲良くします。

 

つるんでいたみんなは、犯罪に巻き込まれ、というか犯罪をする側として巻き込まれてしまい、男たちは次々に命を落としてしまします。

そして、一番思い入れのある彼にも死が迫っていて、ヴィクトリはその場を必死にしのごうとしますが、思い届かず彼は亡くなってしまいます。

そして、一番の見せ場とも言っても良い、ヴィクトリア、ライア・コスタの号泣のシーンが始まるわけですが、もう本当に、めちゃくちゃ泣いています。号泣どころじゃない嗚咽混じり涙鼻水でぐちょぐちょになっちゃってます。

いや、これ演技だよね…?と思うくらい、凄まじい泣きの演技です。

そして、1分くらい?泣き続け、ケロッとしちゃうんです。スタスタと歩き始め、朝日へと向かい歩いていく。

 

出会って2時間だけど、でも好き、とも言えた人。そして、犯罪に巻き込まれてしまい、いつもの日常のはずが、非現実世界に巻き込まれ、怖くて、明日が見えなくて、その中でもう唯一となってしまった、一緒に犯罪を犯した仲間。分かり合える、世界で唯一の人、その人が死んでしまった。

その涙は、長年連れ添った家族、恋人、友人の死に対する悲しみとは違う、“不安”によるものだったと思います。

だけど、すぐに泣きやんでしまった。あとを引くことなく、前へと進んで行ってしまった。

やっぱりそれは、出会って間もない相手で、彼のことはろくに知らない、もしやすると本名ですら知っていないかも(偽名を使ったから)しれない相手だからなのでしょう。

その感じがあの演技によりものすごく現実味を帯びて表現されていました。

こんなとこで泣いてたって何も始まらない。ヴィクトリアは明日へと向かっていったのでした。

 

 

この映画は、今超絶話題の「カメラを止めるな!」を観るよりもずっと前に観て、“ワンカット”の凄まじさに感服した映画でした。

“映画魂”を感じました。

 

とにかくカメラマンがすごい。ストゥルラ・ブラント・グロブレンという方らしいですが、この人1人でやってのけたのでしょうか…。アシスタントと交代とかはなかったのかな…。詳しいことは分からないですが、まあすごい。

走るシーンもしっかりとくっついて、ぶれないし、技術がすごい!

息切れないんかい…!撮影現場を是非とも見てみたいと思わせる映画ですね。